筆者、旅に出る。

日本へ帰国後の筆者は手術入院を終えて東北の奥深き山中にある実家にて英気を養った。 養ったは良いがなんとなく所在がない。 風が吹けば何処へなりと飛んでいく。そんな事を言いながら無風状態の実家でぬくぬくと過ごした。 するとある日、かつて西欧の街すらも闊歩した筆者の足には苔が産していた。   このままでは苔が全身へ行き渡り緑色のムック、あるいはモリゾーキッコロ(覚えておられますか?)のようになってしまう事が予想された。 それはそれで愛らしく、マスコット的にちやほやされるであろう。 しかし人間の乙女との逢瀬は絶無と化す。 危機感を覚えた筆者は旅に出る事にした。

「風は己が動いたときに吹くモノ也。」

こうしてランサーズなどでちまちまと仕事をしながら日本列島を南下しはじめたのがおよそ1ヶ月前。 ドイツへ移住する前に暮らした街も恋しかったので、とりあえず目的地を東京として旅立ったのであった。   新幹線でびゅーんと東京まで行っても良かったのだが、今回は在来線を乗り継いであちらこちらと寄り道をしながら東京へ向かった。 思えば以前はそのような非効率的な旅行に出るような事も無かったな、と思う。   「遊んでいられてよいですね。」「ふらふらしとる場合か!」そのような嫌味も叱咤も聞こえてこないと言えば嘘になる。 しかし、筆者は今「ふらふらしてる場合」であると判断した。   はじめて日本以外の国で生活をし、その身を欧州の乾いた空気で膨らました筆者は、舞い戻った日本社会に以前にも増して窮屈さを覚えた。 この膨らんだ身を納めることの出来る地は無いものか。 必ず何処かにある。日本の何処か、無ければ再びの海外も辞さない。   風たちぬ、いざ生きめやも