古民家を購入して地方に移り住むまで 其の三

格安の空き家物件を探し始めてからもうそろそろ1年が経とうとしていた頃、全国の空き家バンクを巡回していた筆者はこれはなかなか良いなと思える物件を発見する。   田の字型の和室4部屋に板間、台所、土間がL字型に合わさり正方形っぽい間取り。 潔癖症の筆者に嬉しい水洗トイレとユニットバス。 海が近く、車がなくても生活には困らなそうな立地。 低価格なうえに市から助成金まで出る模様。

低価格で物件を探すとなると築年数も自然古くなり、なかなか避け難いのが日本家屋のダークサイド「汲み取り式トイレ」である。 「ボットン便所」などとも言われ下水道が接続できないような斜面地の住宅などに多く設置されている。 汲み取り式トイレの住宅というのは家の外に排気用の煙突が付いていたりするのでわかる。 広島県の坂の町尾道市はつるけんたろう氏の漫画 にあるように汲み取り式トイレの住宅が多かった。 移住者の方たちは簡易水洗などに改装して使用しているとのこと。

筆者ごときが贅沢を言うようであるが、長く付き合うことになるであろう自宅が汲み取り式トイレというのは筆者には受け入れ難かった。 それまで見てきた物件の中にも「汲み取りでなければ・・・。」という惜しい物件は数多く、やはり避けられないのか、と絶望的な気分になったこともあったが、ここにきてようやく条件に見合う物件を探し当てることができたのであった。   善は急げ。 早速空き家バンクに連絡をして所有者の方を照会してもらい、内覧を希望しその週末に伺う約束を取り付ける。

当日。 最寄り駅で待ち合わせをする。 若い人がわざわざ東京から、しかも一人でやってきたことに驚きを隠せないご様子。 簡単に自己紹介をして物件に向かう。 聞けば所有者(名義人)のご両親が戦後間もなく建築し、亡くなるまで暮らした家だそうである。 ちょうどこの頃映画「残穢」を見ていたので、一つの家系が住み暮らしたということになんとなく安堵した。

所有者の方は購入後も多くのことを気にかけてくださり、ご近所への挨拶回りまで同行していただいた大変親切な方なのだが、この時の筆者は「性悪説」の立場にあったので、その警戒レベルたるや犯罪グループアジトに潜入するかの如くであった。 他愛も無い笑い話をしながらも「警戒を怠るな!」と無線が入る。 家に入れば「外壁のチェックはしたのか!不用意だぞ!」と叱責される。 誰に?我が心のボスに。 そうこうして結果的に大変疲れる内覧を終えて持ち帰って検討すると伝え、この日は多少の観光をして帰宅。

一週間ほど悩み抜いて購入することにした。 何に悩んでいたのかというと、後々この古民家が自分にとって負債になりはしまいか?ということであった。 後に綴るが、筆者はこの古民家を終の住処にする気も、この日本の出っ張りに骨を埋める気も毛頭無い。 そろそろここを出るかという頃合いに果たしてこの家の処遇はどうなるのかということを想像してみた。 が、シミュレーションはしてみてもその通りに行くことなんてあるはずが無い。 くるかどうかわからない未来のことより今したいことをやろうでは無いか。 そう思い至った。 人生、行き当たりばったりの精神で突き進むことにした。 そもそも物件はタダ同然なのだしそれほど気負う必要も無いのだが筆者の肝は小さいのであった。   手に入れた古民家はまず掃除をしなければいけない状態である。 しばらくは古民家へ通う形で拠点を複数持ってリア充を気取ろうかとも思ったが、今の筆者には特に東京にいなければならない理由はなかったし、交通費も勿体無いので潔く東京に別れを告げることにしたのだった。   身辺整理はあっという間につき、そうして移住に向けて着々と準備を進めていったのであった。   つづく